業務用通信カラオケにおけるデータ制作の最大手、株式会社シーミュージック。通信カラオケが急激に広まった2000年代初頭、130人の従業員で、2年間に7万曲を制作していたそうです。最近はオーディオレコーディングで制作するケースもあるそうですが、それでも主流はMIDIでの打ち込み。現在は、Windows版Digital Performerを使って制作するのが主流とのこと。過去にはカモンミュージックのレコンポーザやOpcodeのVisionなどを使っていたそうですが、時代の移り変わりとともに使うDAWも変わっていったとのこと。
もともとMIDIシーケンサのPerforerから発展してDAWへと進化したDigital Performerですが、シーミュージックでは今もMIDIシーケンサとして使っているそうです。やはり長年の歴史があるソフトだけに、打ち込みに関して職人のためのツールとして洗練されているのだとか。現在の一般的な音楽制作とはちょっと違う世界ですが、かなり興味深い世界であり、ちょっぴり懐かしさも感じる世界。シーミュージック社長の三木 康司さんに、どうDigital Performerを活用しているのかなど伺ってきました。
--カラオケのデータ制作会社として知られているシーミュージックですが、もともとカラオケ制作のために設立した会社なのですか?
三木:私は、もともとローランド出身で、会社員時代はDTMスクール展開に携わっていました。その後90年に独立して作ったのがシーミュージックです。当初はマニュピレータをやっておりましたが、ちょうどSC-55が出るタイミングでMIDIデータ集の制作の仕事を請け負い、92年に通信カラオケが登場してきたことで、カラオケデータの制作を手がけるようになりました。
--通信カラオケの歴史について知らない人も多いと思いますが、その登場は25年以上前だったんですね。
三木:そうですよね。通信カラオケは登場してから四半世紀が経ち、街を歩けば簡単にカラオケ店を見つけられるほどになりました。当初、約3000曲のラインアップでスタートした通信カラオケは、今では20万曲以上あり、現在もその数は増え続けています。通信カラオケの楽曲データは、現在も基本的にはMIDIデータとなっていて、専用サーバーからカラオケ店に設置してある機器に配信しています。その機器内にMIDI音源が入っており、それを鳴らす仕組みであるのは昔から変わりません。ただ、最近は高音質化のために、ハードウェアの音源からソフトウェアの音源に変わりつつあると思われます。
--通信カラオケのスタート当初は、やはりかなり仕事も多かったのではないですか?
三木:1992年の通信カラオケ第一号機立ち上げ時には1/3近く弊社で制作していましたね。そのころから仕事の大半がカラオケ制作となり、曲数戦争が激化するようになり、他社が3万曲の中、10万曲作ることになり2年で7万曲作りました。そのころが仕事量としては一番多かったですね
--その当時はどんなツールを使って制作していたのですか?
三木:最盛期は130人くらいのメンバーがいたのですが、みんな打ち込みの職人なので、人によって使うツールは違っていました。けれど、一から入力するときはカモンミュージックのレコンポーザーを使っている人が多かったですね。やはりそのころはPC-9801が社内でも主流でした。最近でこそレコンポーザは減りましたが、今でも使っている人はいますからね。一方、MacだとOpcodeのVisionユーザーが多かったのと、最終の納品形式を統一させる目的もあり、レコンポーザで作成したデータもVisionに読み込また上で、出力していましたね。
--そのVisionもレコンポーザも消えてなくなってしまいました……。
三木:Visionがなくなってもしばらくは使っていましたが、徐々にPerformerへ移行していきました。ちょうどMOTUもPerformerからDAWのDigital Performerへと進化していった時期だったと思いますが、やはりMIDIの入力機能が優れていること、また非常に効率よく入力できることから、多くの打ち込み職人であるメンバーがこれを選んでいったんですね。それから、もうずいぶん長い時間が経過しましたが、現在はDigital Performerが完全に主流となっており、社員の9割がWindows版Digital Performerを使っていますよ。
--DPというとMacのイメージが強いですが、なぜWindows版を使っているのでしょうか?
三木:先ほども少しお話をした通り、今のカラオケの音源はPCのソフトで鳴らす、ソフトウェア音源へと変わってきています。そして、そのソフトウェア音源がWindows上で動作するものであるため、MIDIシーケンサもWindowsベースのものを使う必要があるんですよ。もちろん、そのソフトウェア音源は打ち込んでいく段階から必要となるため、Windows版を使っているわけです。
--ところで、世の中的にはDTMもオーディオ主流ですが、カラオケはやはりMIDIなんですね?
三木:カラオケもDTMと同様で、機材の処理速度も向上し、通信速度も速くなり、容量も大きくなったことから、より高品位なオーディオに移行しつつあります。ですが、CDのリリース日には、各カラオケ店においてその新曲を歌えるようにすることが、必須となっていることから、まずはMIDIデータで配信するんですよ。やはり制作スピードという面だとMIDIでの打ち込みのほうが圧倒的に速いですから。また、地方のスナックなど、ネット環境やマシン環境が充実していないところがあるのも事実で、こうしたところではオーディオのカラオケは使えません。そのため、やはりMIDIは今でも必要なんですよ。
--しかしCDリリース日に歌えるようにするというのは現実的な話なんですか?
三木:そうですね、頑張ってます。音源はレコード会社からカラオケのメーカーさん経由で事前に届くので、それを元に打ち込みをしています。早いものだと1か月くらい前に来るものもありますが、中には3日前に届く……といったこともしばしば。当然譜面などはないので、基本的には耳コピでの制作ですね。この打ち込み作業はDigital Performerを使ってみんなで手分けして作っていくのです。
--手分けというのはどのくらいのメンバーで、どんな仕事分類でするのでしょうか?
三木:やはり、楽器ごとに得意、不得意はやはりあるので、パートごとに分かれて打ち込んでいます。たとえば、鍵盤を弾く人にギターを打ち込ませても感覚が違く、ちゃんと打ち込むことが難しいので、楽器ごとのスペシャリストがそれぞれを担当しています。そして、最後ミックスする担当のまとめ役が完成させていっています。
--DPの使い方について、もう少し詳しく教えてください。
三木:先ほど話したとおり、Windows版のDigital Performerを使っており、多くは最新版のひとつ前のバージョンであるDigital Perormerを使っています。制作スタッフに聞いた話だと、Digital Performerだと曲の途中で再生してもピッチベンドやコントロラーを読み取った状態で再生してくれることや、オーディション機能がかなり便利で、なかなかこれを超えるDAWがないといいます。打ち込みの手順としては、音符の入力はピアノロールを使って、音色を変えるときはイベントリストを使うなど、目的によって使い分けているようですね。一方、最終納品の段階ではいったんSONARに集約させた上で、書き出しています。というのも、メーカー側がSONARの仕様に合わせて、MIDI以外の各種情報を入れた上での納品をする必要があるんですよ。
--先ほどCDリリース日に合わせてまずMIDIデータを作るという話がありましたが、それで終了ではないのですね。
三木:よく歌われる曲やクオリティを求められる楽曲は、オーディオ版も作って差し替えていく必要があるのです。そのため、地下のスタジオも使いながら、ギターやドラム、ベースをはじめ、実際の楽器をレコーディングする形で制作しています。2つあるスタジオはかなりフル稼働に近い状態ですよ。ちなみに、このスタジオはカラオケのレコーディングのほかにも、カラオケのお手本ボーカルのレコーディング、アーティストのCDのレコーディング、またシーミュージックでCM制作会社、TV制作会社等に提供している音源「C MUSIC Professional Library」の制作にも使っているんですよ。
--これからのカラオケのシステムはどうなっていくと思いますか?
三木:さらに高音質化はあるし、オーディオは増えていくと思います。とはいえ、これからもMIDIが基本にあることは変わらないといえます。すでにハード音源からソフト音源になっており、これによってより高音質になり、その流れは今後も続いていくでしょうね。
--ありがとうございました。
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